新しいMS明朝がJISに対応しているって?

Windows Vistaの登場にあわせて、OS付属の書体(MS 明朝・MS P明朝・MS ゴシック・MS Pゴシック・MS UI Gothic)がバージョンアップし、メイリオという新しい書体が導入されました。Windows XPのユーザも、Microsoft Updateの「カスタム」によってバージョンアップしたフォントは使えるようになりますが(ここで急いでインストールしないでください)、文字描画エンジンはアップデートされないので、中途半端ではあります(Vistaを買えということです)。

メイリオについてはいろいろ言われていますが、画面表示に使う分にはMS ゴシックよりはずいぶんましになりました(印刷物には使わない方が良さそうですが)。

新しいフォントであるメイリオはいいとして、それ以外のフォントは、その内容が大きく変わったために物議を醸しています。おおざっぱに言えば、新フォントによる変化は次の2点です。

  1. 使える漢字が増えた(第3・4水準漢字が使えるようになった)
  2. 一部の漢字の形が変わった

マイクロソフトはこの変更を「JIS2004への対応」と呼んでいます(JIS2004というのはちょっと謎ですが、JIS X 0213:2004のことなのでしょう)。

これは誤解を招く表現です。

第1に、JISは文字の形を規定しているわけではありませんから、字形を変えたことの責任をJISにおしつけてはいけません(形に過剰に反応する人の批判を過剰に意識したのでしょうか)。

第2に、JISの包摂規準に対応していません。JIS規格には形が少し違っていても同じ文字と見なすためのルール、包摂規準が定めてあって、それをもとにして文字が集められています。たとえば「高」と「髙」は、包摂規準e) 類型の統合によって、同じ文字とみなされます。JISにはこの2文字に相当するコードポイントは一つしかなく、その例示字体には「クチ高」が採用されています。MS明朝には「髙」も収録されているので、JISとは方針が違います。両方の字を使っていると、検索などで支障が生じるのは明らかでしょう。もっとも、「髙」はUnicodeに登録されているので、使えてしまうというのはMS明朝に限った話ではありません。

また、JIS X 0213:2004はJIS X 0212(いわゆる補助漢字)とは一緒に使わないことになっていますが、新フォントは補助漢字もサポートしているので、この点においても、JISには対応していません。

というわけで、JISに対応したと言われる新フォントですが、実際のところ、「対応」という語から想像される状況とはちょっと違うのです。