よいコーヒーのための三つの条件

おいしいコーヒーを飲むために必要な、たった一つの大切なことという記事が話題になっていました。要点は、

コーヒー豆(粉)は冷蔵庫(冷凍庫)で保管しましょう

とのこと。ちょっと気になったのは、

酸化したコーヒー豆で淹れたコーヒーは、はっきり言ってまずいです。泥を飲んでいるようです。

このコーヒーを飲んで、「ああ、コーヒーってまずいよな」とか、「ブラックコーヒーはこんなもの」とか、「やっぱりミルクと砂糖がないとダメだよ」とか言われると、僕は悲しい。

かくして、「コーヒーはうまいものではない」というダメ都市伝説が世の中を席巻します。

というところ。お店で挽いてもらったとしても最初はおいしいはずなので、「コーヒーはうまいものではない」ということにはならないと思います。ちょっとずつ(例えば1日1杯とか)飲んでいると、味も香りもだんだん悪くなっていくことがわかるはずです

思うに、コーヒーを飲む人の大部分にとって、味も香りも関係ないのではないでしょうか。ようは、カフェインを摂取できればいいとか、コーヒーを飲むというライフスタイルが好きとか

日本でのコーヒーの売れゆきは、中身よりもストーリー性やうんちくのあるなしで決まってしまうんです(p.254)

コーヒーに憑かれた男たちあるいは、酸化したものをおいしいと思うようになっているのではないでしょうか。こんな話もあります。ちょうど文庫化された嶋中労『コーヒーに憑かれた男たち』から(引用はハードカバー版から)

某喫茶学校で複数の被験者に三種類のコーヒーを飲ませた。古くなって発酵したコーヒー、焙煎したての新鮮なコーヒー、そしてインスタントコーヒーの三つである。で、うまいとおもった順に並べてみろとやったら、①古くなって発酵したコーヒー、②インスタントコーヒー、③焙煎したての新鮮なコーヒーの順に示し合わせてように並べたものだから、主催者側はあわてた。日頃から鮮度の劣化したコーヒーばかり飲んでいた被験者たちの味覚は、だんだん「わるいコーヒー」の味に馴致され、発酵臭までもうまいと感じるようになってしまったのである。(p.52)

人間の嗜好の柔軟性には感心してしまいます

そもそも、2007年の九州・沖縄サミットの晩餐会のコーヒーを担当した南千住「カフェ・バッハ」店主、田口護氏によれば、

「うまい・まずい」というのは個人の嗜好の問題で、そこには客観的な評価が介在しにくく、議論の土俵にはなり得ない(p.52)

では、「よいコーヒー」の条件は? 田口氏によれば、それは次のようなものだそうです(p.55)

  1. 「欠陥豆」がハンドピックによって取り除かれているもの
  2. 煎りムラや芯残りのない「適正な焙煎」がほどこされたもの
  3. 焙煎したての「新鮮」なもの

最近ではあたりまえですよね

この本では、ここで紹介した田口氏の他に、銀座「カフェ・ド・ランブル」の関口 一郎氏、吉祥寺「もか」の標 交紀氏を御三家とし、彼らを軸にコーヒー文化を語っています

オールドコーヒーといえばランブルの関口、関口といえばオールドコーヒー—「虎屋の羊羹」を知らぬものがないように、自家焙煎を志す者にとっては、関口のオールドはすでに歴史的な事実であり、味わっておくべき必須のコーヒーといっていい。(p.37)

標の放つ批判の矢はパリの国立図書館にも向けられる。館内の書庫には世界最古のコーヒーに関する文献があるというのだが・・・。

《・・・ついでに、コーヒー部門の資料を見てみたが、これは貧弱きわまるコレクションで、我が家の書家にあるものの方が、質・量共に、はるかに充実した内容だった》(p.223)

煎ったコーヒーの賞味期限も10日くらいです

私たちはこの三〇年、ひたすらまずいコーヒーを飲まされてきたことになる。しかしそのまずいコーヒーが生まれた背景には、貧しい生産国の止むにやまれぬ事情があった。だれが言ったか、「コーヒーは貧困と流血の産物」なのだという

田口氏のコーヒーを飲んだブラジルのコーヒー農民たちが、「おれたちが育てたコーヒーはこんな味がするのか・・・」と驚いたというエピソードも紹介されている(p.229)

「コーヒーの"苦味"はただの苦味ではない(p.191)」

・・・

技術を惜しげもなく披露することに関して訊かれた「カフェ・バッハ」の田口氏はこう答えたそうです

いや、ぜんぜんかまわなない。うちにはそういった企業秘密みたいなものはないから。あれは技術の七割八割を共有しようってものだから、まったくかまわないの。実際はその上にいくつかの段階があって、それは言葉や数字の裏に隠れてる。努力次第でそれが徐々に明かされる、という感じかな。もちろんその隠された部分も精確に言葉で表現しきってみたい、という欲求はあったんだけどね(p.156)

コーヒーが好きでかつバッハが好きな人は、『田口護の珈琲大全』『珈琲の楽しみ方BOOK』には、たまらない魅力を感じるのでは?

田口護の珈琲大全 珈琲の楽しみ方BOOK―豆の選び方・挽き方、ブレンドの仕方がわかる (カンガルー文庫)

関連:コーヒー危機

ちなみに、『憑かれた女たち』というのはAmazonにはこれしかありませんが、「憑かれた男たち」というのはたくさんありますね。男はつかれやすい?

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