梅田望夫さんとガラパゴスチェス(あるいは将棋)

2006年に『ウェブ進化論』でスマッシュヒットを飛ばした梅田望夫さんが、インタビューで「日本のWebは残念」だと発言したそうです(Web、はてな、将棋への思い 梅田望夫さんに聞く)。

最近の梅田さんは、ちょっと弱気になっているようです。たとえば、ひろゆきとの対談を断ったという話を、『本人 vol.09』でひろゆきさんが披露していました。

もし彼に度胸と自信があれば、たぶん一緒に議論をして、どっちが正しいか決めよう、もしくはお互いの間違いを認めようってなると思うんですけど、たぶんそういうことをしたら、自分の状況が不利になるぐらいの計算は立つ人だと思うんですよ。

そんな弱気な梅田さんに、たくさんの人が励ましの言葉を寄せています。

梅田さんは「ところで、お前はてなのコードどんだけ書いたの?」とつっこまれたり、「ポジショントークの人」と言われたりしているので、どちらかといえば軽く見られているのだと思っていました。そういえば、『本人 vol.09』では、ひろゆきさんにこんなふうに言われていました。

もともとあの人って、コンサルタントじゃないですか。だからインターネットはこれからうまくいきますよとお金を持っている人に言って、投資をお手伝いしますよ、その代わり手数料をくださいというビジネスでしょう。そうすると、インターネットは夢がありますって言わないと仕事にならないじゃないですか。

しかし、実際はそうではなかったようです。たくさんの人が梅田さんの発言に注目し、貴重な時間を費やしてコメントしています。ウェブ業界のスターたちも例外ではありません。私なんかもうリンクを張るだけでおなかいっぱいです。

でも、なんて言うか、励ますならまず、梅田さんの最近の著作について暖かいコメントを出して、Amazonへのリンクを貼ったりしてほしいです。大部分の人が「将棋」をスルーしているじゃないですか。「ロジックの通じる友達が多いです」というひろゆきさんでさえ、次のような勘違いをしたりするんです。こういう誤解をロジカルに解くなんていうのは、梅田さんにぴったりじゃないですか。

囲碁や将棋って持ち時間があるでしょう? そうすると、相手に迷惑をいくらかけても、長く考えたやつの方が強いんです。(『本人 vol.09』

梅田さんと将棋に関する発言で、私の目にとまったのは切込隊長さんのものだけです。曰く、

将棋とシリコンバレーなんてどうでもいいだろ、正直なところ

これでは台無しです。どうでもいいなんて言わないでください。

こんな感じで書いてもらいたいのです(参考:404 Blog Not Found)。皮肉を言っているように見えるかもしれませんが、そういう意図はありません。

  • ブログで発言するものは、今後本書を読まずしてガラパゴスについて語るべからず
  • この本をどれだけイイ!と思えるかで、進化の段階を測れる、そんな一冊だ
  • 結論だけ言えば、才能というものに対し、少しでも「なにかしたい」という思いがある人は、必ず目を通すべき一冊である
  • 面白い! 著者の作品の中では、最も面白かった

私の想像ですが、梅田さんは次のような図式で日本の文化を整理しようとしているのだと思います。

グローバル ガラパゴス
Nokia ケータイ
英語 日本語
囲碁(チェス?) 将棋

「ガラパゴス」というキーワードで日本を語ることが有意義かどうかの判断にはもう少し時間がかかると思いますが、これまで「ケータイ」と「日本語」しかなかったこの枠組みに、実例をもう一つ追加し、そこに一生懸命スポットライトをあてようとする姿勢はもっと評価されていいと思います。

「羽生さんは日本で一番優れた、日本で一番貴重な人だと思うからね」(インタビュー後編)という発言における、「日本」が「世界」になることはおそらくないでしょう。囲碁の世界選手権に相当するものは将棋にはありません。碁打ちになるか将棋指しになるか悩んでいる子どもにとって、「世界チャンピオン」に成り得るという点では囲碁のほうが魅力的でしょう。その子が大人になる頃に、コンピュータに対して人間が優位を保っているのは、おそらく将棋ではなく囲碁でしょう。外国で書かれた人工知能の標準的な教科書で、オセロとチェス、囲碁が取り上げられているのに将棋が取り上げられていないのは、そんなにおかしなことではありません。(参考:囲碁と将棋の違い

こういうことに対する梅田さんの悔しい思いに、もっと共感してもいいのではないでしょうか。

梅田さんの新著は、「何語に翻訳してウェブにアップすることも自由」だそうです。これは、ガラパゴスから脱却する方法の一案なのでしょう。それなのに、「どうせならクリエイティブ・コモンズにすれば、日本語版も」とか「日本語版は売れるけど、それ以外は翻訳費用の元が取れないからボランティアにやらせてる」、「お金にならない部分を利用可能にしただけなのに、オープンソースを語るな」とか揚げ足を取らないでください。梅田さんは「オープンソース的協力」と言っているのであって、「オープンソース」と言っているわけではないのです。たいていの場合、「・・・的」と「・・・」とは似て非なるものなのです。(参考:「オープンソース」の二つの意味

揚げ足取りのネガティブなウェブから高め合いのポジティブなウェブへ。ここまで当プロジェクトがやってきたのは、ポジティブな風を少しでも吹き込めるようにするための土台作りです。(「英訳版「敲(たた)かれ台」がウェブ上に一般公開されました!」より)

梅田さんの言葉の影響力がうらやましいです。